神のいのちの秘密の中に立つマリア
2022年12月18日
イザヤ書11:1～10、ルカによる福音書1:26～38
関 伸子牧師
ルカによる福音書第2章に記されているマリアの受胎告知は、ある意味では不思議な、しかし、福音に目が開かれるならば、わたしたちの信仰の中心であるイエス・キリストの誕生の出来事に出会います。これは何を意味するのでしょう。
ここで語られることは、事が起こったのが、祭司ザカリアにヨハネの誕生が予告された出来事から6か月後であったということです。ここで、主イエスの誕生という出来事が、洗礼者ヨハネの誕生と結びつけられています。このことは、これらの事柄が、確かな神の計画によることを示しています。神が、わたしたちを救うために独り子をこの地上に遣わされるという、大きな決断をなさった。それは周到な計画のもとに進められます。
天使ガブリエルが遣わされたのは、ガリラヤの町ナザレです。ヨハネ誕生の予告は、エルサレムの神殿でなされました。一方ナザレは、顧みられることのなかったガリラヤ地方の、知る人も少ない世界の片隅です。その当時は、強大なローマ帝国に征服された一属国です。しかしヨハネ誕生の予告も、すでに年老いて子を持つ望みを失ってしまっていた祭司ザカリアとその妻エリサベトに対してなされたのであって、その意味では、望みの周辺にいる者に対してなされたのです。その予告をした天使が、続いてガリラヤのナザレに住むおとめに遣わされたことは、関わりがあるでしょう。すでに年老いて子を持つ望みを失ってしまった女性と、まだ結婚していないおとめと、このふたりを神はお選びになりました。神の選びは、わたしたちの常識を超えたところでなされます。そこに、わたしたちの希望があります。
天使ガブリエルのマリアへの最初の言葉は、「おめでとう、恵まれた方」でした。その挨拶の最初の言葉「おめでとう」は「こんにちは」とも訳されますが、直訳は、「喜べ」です。この動詞「喜ぶ」もルカ福音書に最も多く用いられている言葉です。マリアは何を喜べばよいのでしょう。「恵まれた方」、これは「神が守り、身を向けてくださり、祝福された方よ、恵みを受けた方よ！」という意味です。マリアはどのように恵まれているのでしょう。それは、「主があなたと共におられる」ということです。
天使は「主があなたと共におられる」ことを、そして恐れなくて大丈夫ということを、静かに、温かく語りかけてくれます。マリアは信じて委ねていくことが自分のすることと知り、お言葉通りこの身になりますように」と言うことができました。
このようにして、神の救いの計画が明らかになりました。しかし、この計画は確かに人間の思いつくような類のものではありませんでした。なぜなら、イエスに与えられた「父ダビデの王座」とは金銀で覆われた玉座ではなく、十字架であったからです。こうして、真の王による神の支配がはじまりますが、それはかつての王のように人々を圧迫する支配ではなく、十字架を背負うことによって、人々を罪から解放する支配です。
38節のマリアの言葉は重要です。それを誤解しないためには、「仕え女」（新共同訳では「はしため」）の意味を確認しておく必要があります。詩編第123編の2節に次のようにあります。「見よ、奴隷の目が主人の手に向かうように 女奴隷の目が女主人の手に向かうように 私たちの目は我らの神、主に向かう 主が私たちを憐れんでくださるまで」。主人・女主人によって神がたとえられています。神はわたしたちに憐れみをかけてくださる方であり、その憐れみをわたしたちは待ち望んでいます。マリアは「主の仕え女」です。それは、マリアから生まれる子を通して「王の支配」が成就すると知ったからこそ、その救いへと身を開いて憐れみを待つ「仕え女」なのです。もうはしためは問題ではなくなりました。「神の語られるとおり」、そうです、神の言葉が大切なのです。
マリアはここで、自分の描く幸いから、神の業に用いられる幸いの中へと、一歩を踏み出す決断をしたのです。人知れずくだされたこのおとめマリアの決断によって、わたしたちの救いの道が開かれました。
このような決断ができることは何とすばらしいことかと思います。信仰とは、ただ一つ、自分にとらわれている不信仰を、神が恵みによって、わたしと共にいることによって、もう乗り越えられたということなのです。ただ、すべきことをして、与えられるべきことを待つ、これが、クリスマスを待つ信仰です。マリアのように全く受け身になって、御心のままになさってくださいと祈ることです。そして、全く新しい心で、クリスマスの不思議さを見る事です。わたしたちもまた、そのような幸いな生き方へと招かれています。お祈りします。