できる限り平和に
2023年8月6日
詩編122:1～9、ローマの信徒への手紙12:9～21
関 伸子牧師
先ほどお読みしたローマの信徒への手紙第12章に「できれば、せめてあなたがたは、すべての人と平和に過ごしなさい」とパウロが語った言葉が記されています。これはキリスト者として教会の中のみならず、この世において私たちが覚えておきたいことです。
まず、「愛には偽りがあってはなりません。悪を退け、善に親しみ」（9節）とあります。「偽りがあってはならない」という字は偽善的であってはならないということです。アウグスティヌスは、「人間はほんとうの愛に飢えているので、偽りの愛さえ人をとらえるものだ」と言いました。見えすいたお世辞と分かっても、私たちは、ひとの好意に弱いのです。みんな愛とつながりを持っていたいのです。
10節には「兄弟愛をもって互いに深く愛し、互いに相手を尊敬し」とも書かれています。ここで愛をテーマとして語られています。愛については、コリントの信徒への手紙一第13章で言われているような、愛の偉大さを正面切って語ることもできますが、ここにはもと具体的な指示がなされています。
「兄弟愛をもって」接するのは、教会内の人々だけであって、教会外の人々にはそうしないのでしょうか。ここには教会内でのあり方だけではなく、教会外でのあり方についても書かれています。例えば「あなたかがを迫害する者を祝福しなさい。祝福するのであって、呪ってはなりません」（14節）、「誰にも悪をもって悪に報いることなく、すべての人の前で善を行いなさい」（17節）とあります。一般的に言えば、迫害する者が教会の中にいるわけがありません。パウロも、主イエスの時からのこの大きな問題を、いつも、深く心に留めていたのでしょう。パウロは、かつて教会の部外者でした。しかし主はパウロを滅ぼさず、憐れみによって救われました。今は教会の指導者として立たされています。主がなさることはなんと不思議なことでしょう。愛は敵を隣人に変えることができる。愛は他人をきょうだいたちに変えることができる、とパウロは確信をもって言うのです。
17節から21節は一つのまとまりをなしており、迫害の下に置かれる教会にとって最も切実な「復讐」のことが取り上がられます。「誰にも悪をもって悪に報いることなく、すべての人の前で善を行いなさい」（17節）、ここでは、すべての人に対して善を行うことを欲するだけでなく、きちんと計画し、効果的に善を実行しなければならないことが語られています。信仰者は、いつでも、ひとはどう思おうと勝手であるということは許されないのです。それは、人間相手の生活だからというのではなく、神に救われた者の神に対する責任だからです。
そのことは、さらに次のことでも分かると思います。「できれば、せめてあなたがたは、すべての人と平和に過ごしなさい」（18節）。「善を行う」の中で最も重要なことは、平和を保つことです。「できれば」というこの節の書き出しは、「もし、出来れば、自分自身に関する限り」と意訳することができ、二つの句からできています。その理由は、おそらく、二つあるのではないかと思います。ひとつは、和解の相手がすべての人ですから、教会以外の人もみな含んでいるわけです。そうであれば、そこには、おのずから限界があります。教会の外の人をも入れた場合には、制限を考えないわけにはいかないでしょう。教会の中では、イエス・キリストによる和解が基礎となっているからです。
もうひとつは、平和に過ごすために必要な正しさについては、神にお任せするほかはないので、私たちのなし得ることは、自分にできる範囲で、ということになるでしょう。わたしたちが仕える神は「平和の神」であります。神はキリストにおいてわたしたちのために平和を生み出されたことによって（ローマ5:1）、わたしたちを平和へと召されました。「出来る限り」というのは、現実の世界の中で平和をもって生きるということが非常に難しいということを知りながらも、なお、イエスをキリストと信じている信仰を肯定的に生きるということなのです。
そこで、19節から21節に記されている復讐の問題になるのです。19節では、復讐してはならないことが申命記第32章35節の引用を伴って厳しく命じられます。「神の怒り」と言われているのは、終末的なさばきのことです。20節は、復讐の気持ちを抑えるだけでなく、さらに敵に対する愛によってそうした憎しみを克服すべきことが命じられています。このようにして神の恵みを知る者は、何をも恐れることなく、また、思い煩うことなく、敵を愛し、その愛によって、悪に勝つのです。
私たちは世に中にある諸々の悪に敗北しない、思慮深いキリスト者として生きることができる。恵みのゆえに、謙虚になり、すべての人に対することは、どんな場合でも、キリストの救いによって罪ゆるされた者の立場を忘れない者として、できる限りすべての人と平和に過ごしたいと思います。お祈りいたします。