カンバーランド長老キリスト教会

東小金井教会説教

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  • 人は老いてはいけないの?

    コヘレトの言葉12章
    篠﨑 千穂子_伝道師(めぐみ教会)

     「若き日に、あなたの造り主を心に刻め」とても有名な言葉です。けれども私はこの聖書を読むたびに、「未来ある若者にこの言葉を聞かせたい!」という思いから「いい言葉だな」と感じるのが半分。「『空の空』なんて虚しさを感じさせる言葉、このあとに続かせなければいいのに。」という思いから「この言葉だけでいいのになぁ」と思うのが四分の一。残りの四分の一くらいで「神 様も教会も社会も、若い人ばかりを求めているのかしら…。」という気持ちになって「なんか寂しいなぁ」と思ってしまうのです。そんなわけで本日は、コヘレトの言葉12章を通して、「人は老いてはいけないの?」ということをご一緒に考えていきたいと思うのです。

     コヘレトは、「若き日に、あなたの造り主を心に刻め」と命じますが、その理由を2節から7節で比喩表現をたっぷり用いて、待ったなしに進む老いと死で説明しています。ここだけを読むと、「人生は空しい。人は老いていくのだから、老いは悲しみなのだから、死は思ったより早く来るのだから、若いうちに神を覚えておきなさい。」と読めてきて、「若いうちに神を覚えて、救いを手に入れておかないといけない。」という気にさせられるものです。

     では、救いとは一体何でしょうか。コヘレトの言葉12章から救いとは何かを考えるとき、私たちが忘れてはならないのは、「神を畏れ、その戒めを守れ。」(13節)という言葉です。「神を畏れる」とは、神様をビクビク怖がることをいうのではありません。「神を畏れる」とは、「神を貴い存在として敬うこと」をいいます。ではなぜ私たちが「神を貴い存在として敬うこと」が必要かというと、神がこの世界を造り、皆さんを造り、今もこの世界を治めておられる方だからです。そのうえで、私たちは神の戒めを守ることが要求されていますが、それは、神様が「この生き方をすれば安全だよ。」と教えてくれたガイドラインの中で、安全に楽しく生きるということを意味しています。つまり、「神を畏れ、その戒めを守れ。」とは、「神を貴い存在として敬い、神の定めたガイドラインの中で、神と共に安全に楽しく生きなさい。」という言葉に置き換えることができるかと思います。これは、「どうしたら天国に行けるか」を示すものではありません。むしろ、「この世界でどう生きるべきか。」が問われているものです。

     「空の空」とコヘレトは語ります。私たちはこの「空」と言う言葉を、「空しさ」と同義と考えがちですが、ヘブライ語の「空」と言う言葉には「儚さ」という意味があるのだそうです。人間は儚い生き物で、長くても100年、通常数十年しか生きることしかできないのに、その短い人生でさえなかなか満足して終えることができません。多くの人や自分をも傷つけ、すべての人に死は平等に訪れます。命の循環は、私たちの思いなんて存在しないかのように淡々と単調に流れていく…。けれども単調に見える命の循環の中で、神様はコヘレトを通して私たちに、「神を貴い存在として敬い、神の定めたガイドラインの中で、神と共に安全に楽しく生きなさい。」と言われるのです。神が与えてくれたガイドラインは、「神を愛することと、人を愛すること」に繋がっています。そしてそれを守って生きるなら、人は必ず幸せになると約束されているのです。神と共に生きることは一見、制約が多くて面倒くさくて避けたい生き方に見えるかもしれません。でも本当は、神を愛して人を愛することは、神に似せて造られた私たちにとって心底の幸せを味わわせてくれる生き方です。だから神は、なるべくその時間を長く与えたいと願って言われるのです。「若き日に、あなたの造り主を心に刻め。」この言葉は私たちが老いることを否定する言葉ではありません。年齢を重ねると私たちは、悲しみや苦しさや辛さを味わうことが増えるかもしれません。そして私たちは、友の悲しみを共に味わったり、喜びを共に喜びたいと願っても、隣人に完全に寄り添うことができない不完全な者たちです。けれども、神様は違います。神様は、私たちの悲しみを心から理解して、いつでも寄り添って、共に涙を流して、その痛みを癒してくださる方です。

     皆さんは、若き日に造り主を心に刻まれた方です。「そんなことはない、私は定年後に受洗をしました。」という方がおられたとしたら、それは神様がその方に備えられた一番神様との出会いに適した「若き日」だったのです。またもしかすると、この礼拝に出席しておられる方の中には、「造り主である主を私はまだ心に刻んでいません。」という方もおられるかもしれません。そんな皆さんには、私や皆さんの人生の中で最も若い日は「今日」であることをお伝えしたいと思います。人生の中で最も若い今日という日に、神様が皆さんを招いておられます。「私と共に生きる生き方のほうが、あなたは絶対にこの世界を生きやすくなる。だから、なるべく早く私と共に生きることを選んでほしい。あなたに幸せな時間をできるだけ長く過ごしてほしいから。あなたが思うほど、人生は長くないから。人生は、儚いものだから。」…そんな神様の声が聞こえてくるような気がするのです。願わくは、私たちが人生の若き日、今日、神様を受け入れ、共に生きることを日々日々選び取っていく恵みに与ることができますように。