神を呼ぶ祈り
2025年5月25日
列王記上18:20～39、マタイによる福音書6:1～15
関 伸子_牧師
今日の聖書箇所を読む私たちには、私たちの行為が二種類に分けられることに気づかされます。偽善者のようにか、あるいは、主イエス・キリストを見つめて神に栄光を帰する行為か。「偽善者」は、マタイがこの語を用いる時には主としてファリサイ派、律法学者が頭にあります。ファリサイ派の人たちは、施しや祈りや断食などの善行をすることによって神に義と認められると考えていたので、それらを実行しようと努力していました。しかし、「隠れたところで見ておられる神」、このお方が問題になるとき、私たちの行動は、一変するでしょう。自分にとらわれず、イエス・キリストのみを見つめて行動するでしょう。神は隠れています。イエス・キリストも飼い葉桶の隠れた中にこられました。自分の善い行いや名声や自己宣伝に憂き身をやつしているところに神はおられません。
祈りの場合も同じでした。最も敬虔に見える祈りという行為の中にこそ、偽善的はものが忍び込む余地があることをイエスは知っておられます。イエスはさらに「あなたが祈るときは、奥の部屋に入って戸を閉め、隠れた所におられるあなたの父に祈りなさい。そうすれば、隠れたことを見ておられる父が、あなたに報いてくださる」（6節）と言われます。「奥の部屋」とは、当時の農家などにはよくあった、納屋、物置などのように用いられた部屋だったようです。窓が全く無く、内側から戸を閉じると、真っ暗になる部屋です。ひとの評価を断ち切ることができる。しかし、人に明らかに見えるように、自分の密室を確保することもまた、偽善の道になりかねないのです。「彼らはその報いを受けてしまっている」。もう計算がすんでいるのです。ですから、人からの評価をやめるのです。
ここでイエスは、祈りに関連して、「主の祈り」を教えられました。その第一は、「天におられる私たちの父よ 御名が聖とされますように」（9節）。「御名」とは単に神の名前ということを意味しません。それは神の本質、神御自身のことです。神御自身が御名を聖とするという思想はエゼキエル書に顕著に見いだされます。「私は、あなたがたが諸国民の中で汚したために、汚されてしまった私の大いなる名を聖なるものとする」（36：23a）。エゼキエルはイスラエルの罪、背信によって損なわれた神の名誉を神御自身が自分のために回復する、そのような神を示します。
第二は「御国が来ますように」（10節）。「御国」「天の国」「神の国」は、空間的領域を指すよりも、神の主権者としての支配力、統治と言えます。それは究極的には、終末においてもたらされる神の支配のことですけれども、同時にイエス・キリストにおいてすでに始まっています。
第三は「御心が行われますように 天におけるように地の上にも」（10節）。イエスはゲッセマネの園で、「しかし、私の望むようにではなく、御心のままに」（26:39）と祈られました。この祈願は、主イエスご自身が、そのみ苦しみの、最も深いところにおいて、ご自分の意志にさからうようにして、祈らなければならなかった祈りだ、ということです。主においてこそ、そのようにして、はじめて、この祈りが真実の祈りとなりました。
イエスは次に、自分たちのために祈るように教えられました。第一は、「私たちに日ごとの糧を今日お与えください」（11節）。私たちの日常生活における物質的な必要が、神によって与えられるように願う祈りです。荒れ野を40年さまよい、神の約束の地を目ざしてゆくイスラエルを悩まし、しばしば不信仰にさせたのは、決して教理上の問題ではなく、パンや水の不足でした。こういった身近なことで、わたしたちは不信仰になるのです。ただそれを「私に求めよ」、すべてのものの造り主なる神に求め、その豊かさに信頼して祈りなさいと主イエスは言われました。
第二の祈りは、「私たちの負い目を赦してください」(12節)。通常、人は働けばそれに対する報酬を「恵み」としてではなく、当然「支払われるべきもの」として受け取ります。しかし、人は罪を働いた場合には、神または人に対して「負い目」を作ることになり、この負い目をなんらかの形で返す義務が生じます。しかし、罪人はこの負い目を返すことができないので、神は十字架上で流されたイエス・キリストの尊い血に基づいて、罪の赦しを「恵み」として与えます。この神の恵みは、人間の働きや努力と関係のない神からの一方的な賜物です。したがって、この節の祈りは、自分が他者の罪を許すことが出来た時に、神が与えてくれた恵みに感謝すると同時に、その恵みを今後も神に願う祈りなのです。
第三の祈りは「私たちを試みに遭わせず 悪からお救いください」（13節）。もう駄目だと思い込んで、神の力の大きさを忘れ、富が大きくなると、「これで大丈夫」と、神を考えなくなるからです。自分の力を過信せず、神に信頼し、神の力によって、悪の力から救い出されるように祈る必要があります。
ある人は、この祈りについて、ただひとこと書きました。「この祈りができるのは、キリスト者だけである」。私たちキリスト者だけが、これを祈りうる。キリスト者とは、キリストの恵みを知る者です。その大きさ、強さを知っている者です。主イエスのゲッセマネの痛切な祈り、それもまた、試みにあわせず、という祈りでした。これはまさしく主の地上の愛の、歩みの究極の苦しみの祈りでした。そしてゆるしの祈りでした。ゆるしのきわみ、愛のきわみの、十字架に向かう祈りでした。この主の、ゆるしの恵みに支えられて私たちは、今祈り始めます。今、生き始めます。ゆるしと信頼の生活を作る戦いを始めるのです。祈りはすばらしいものです。神が与えてくださった最大の賜物のひとつなのです。お祈りをいたします。